PAX-A16の1台が、ウーハーの断線で音が出ません。
修理を試みましたが、50年を経過したユニットはエッジがもろくなっていて、ダンパーの接着がとても強力なため、修理は断念して分解し、断線箇所を確かめることにしました。
長い記事になりますが、ご自分で修理に挑戦される方に、構造を画像でご紹介します。PAX-A20も構造的には同じと思われます。
スピーカーの構造は基本的にはみな同じですので、以前、FOSTEX P650 スピーカーキットを作ったことが参考になりました。
エッジの外し方
分厚いゴム製のパッキンを外します。マイナスドライバーなどを4箇所の穴に差し込んで少しずつ起こしていくと外れます。パッキンの底はゴム系接着剤で軽く接着されています。
根気よくやっていきますと外れます。このとき注意していてもエッジの端が破れます。しかし、このサイズのエッジはAmazonで市販されているので、ついでにエッジを交換するといいです。
エッジは「uxcell フォームエッジ 外径155mm ブラック フォーム サラウンドリング交換 スピーカー修理DIY 耐摩耗性 2個入り」で検索してみてください。1,390円ほどです。
ホーンツイータの外し方
まず配線ケーブルを外します。外す箇所は4箇所です。
スピーカーターミナルからコーン紙につながるところのプラスとマイナスの2箇所。
コーン紙からツイータにつながるところの2箇所です。
ホーンツイータはセンターのオスネジにねじ込まれ、ゴム系の接着剤で止められています。なので、ホーンを持って左右に回して接着を外します。
最初は硬いですが、左右に揺さぶって回すようにしていると、少しづつ左右に動くようになりますので、根気よく動く範囲を広げてやると回るようになります。左回しで外れます。
樹脂製のホーンが壊れないように手加減してください。
外れました。このときゴムパッキンを入れておいたほうが作業しやすいです。
底にゴム系接着剤の跡が見えます。
ホーンとマグネットごと外れます。
ホーンツイータのネジ部にゴム系接着剤の跡が見えます。コンデンサには「1.6」と表示されていましたが、1.6μFでは小さすぎます(5kHzカットなら4μFが必要)ので部品番号でしょうか。
ダンパーの取り外しは困難です
さて、問題はダンパーの取り外しです。ダンパーは黒いゴム系接着剤で強固に接着されています。黒いのはダンピング剤を混ぜているためと思われます。
ゴム系の接着剤を溶かすために100円ショップで売っている「マニキュアの除光液(アセトン)」を何度もたっぷり染み込ませましたがびくともしません。
50年経過したゴム系接着剤を揮発系の溶剤で溶かすことは困難です。これを外して修理している人は、最適な溶剤を知っているのでしょう。油性の溶剤がいいのかもしれません。
先の細いマイナスドライバーでダンパーの端を起こそうとしても固くて起きません。力が余ってマイナスドライバーが滑り、ダンパーに穴を開けるのがオチです。
ダンパーが外せないときは修理を諦めましょう。エッジの補修部品はありますが、ダンパーの補修部品は市販されていません。
私は、構造をどうしても知りたく、断線箇所も確かめたいため、捨ててしまうくらいならとカッターナイフでダンパーを切り取りました。
ボイスコイル、ダンパー、コーン紙がそっくり外れました。非常に軽いです。計ると8.2gでした。ボビンの内側に擦れた跡があります。
断線の原因は
ボイスコイルに傷跡が2箇所ありました。いずれもこの面だけでほかは綺麗でした。コイルが完全に擦れています。内側の擦れも外側と同じ位置です。ルーペで拡大してみても断線はありませんでした。
ボイスコイルのコア内側にも擦れた形跡があります。
ボイスコイルがほどけている形跡はありませんし、本来マグネットとボイスコイルの空間(磁気ギャップ)は密閉空間なので異物が入ることはまず考えられません。マグネットは3本のビスで固定しています。
マグネットの間隙に薄紙を差し込んでみると、「ガサガサ」とした引っかかる感触があります。何かがあるようです。
薄紙には汚れが付きました。おそらくサビ、フェライトマグネットのかけらなどではないかと思います。もしかすると通気性の悪い密閉型の箱に取り付けられていたのかもしれませんね。
一応、硬めの紙片を差し込んで異物を削ぎ落とすようにぐるぐると回して、粘着テープを差し込んで吸着し、最後に掃除機で吸い込んでみました。粘着テープは意外と間隙に入っていきました。
取れた汚れです。大きな物はありませんでした。黒い粉状のものはフェライトマグネット片と思われます。ダンパーの目をとおったホコリも入っているようです。
でもこれでボイスコイルを差し込んで動かしてみるとスムーズに動いたので、小さな異物でもボイスコイルには大敵なことが分かりました。
画像がボイスコイルとケーブルの接合箇所付近です。接合部はコーン紙とボイスコイルとの接着箇所なので見ることができません。念のためにこの状態で導通を確認すると導通ゼロでした。
リード線とボイスコイルの接合部を出すには、さらにコーン紙とボイスコイルを取り外す必要があります。いずれこの部分も分解してみようと思っています。
断線箇所も目視できませんでした。修理は容易ではないことがわかりました。
まとめ
修理不能だったのにまとめは気が引けますが、感想をまとめておきます。
1.エッジは必ず破れるので交換を前提にした方がいい。
2.ダンパーを取り外すことは、「ちょっと器用」ぐらいの腕前では困難です。ゴム系の完全に固化した接着剤を溶かす方法を考えなければなりません。メーカーに聞いたほうがいいかも。
3.ダンパーが外れたとして、マグネット部分に異物が混入していた場合は記事のように除去する必要があります。マグネットのかけらなどは、マグネットに吸着していますから粘着テープなどを使って取る。
4.PAX-Aシリーズは、アルミ線材のボイスコイルを使っているため、リード線とボイスコイルとの接合箇所の腐食による断線が多いようです。ただし、接合部を出すときは、コーン紙とボイスコイルを外さなければ目視できない。
以上より、ダンパーが外れない場合は修理不可能。外すだけの技術がある方は、断線箇所を見つけ出すことは可能でしょうし、修理も可能だと思われます。