AKAI GX-635D オープンデッキ
アカイ(赤井電機) 1978年製
※ 内容は2008年ごろのものです。
♪オープンデッキの世界へ
2008年も押しつまった12月、オープンデッキの世界に足を踏み入れることになりました。
’08年の後半から興味があったのですが、知人からデッキを貸してもらって聴いた途端にすっかりその魅力に取りつかれてしまったのです。
購入したデッキはAKAI製GX-635Dです。
4トラック19cm/s のオートリバース機で、1978年の製品です。当時の定価は185,000円で、とても簡単には購入できるものではありませんでした。
現在は、TEAC X-1000Rと並んで比較的安価で手に入れやすく人気のある機種です。
昔、’60年代後半に、テープレコーダーのリールが回る様子にとても興味を引かれ、憧れたものでした。
私が初めてステレオを入手した’70年は、まだオープンデッキの時代で、ステレオの中にデッキスペースがあって、5号から7号リールのデッキがちょうど収まるようになっていました。
カセットデッキは出始めで、カセットを前面ではなく上から蓋を開けて入れる方式で、再生ボタンはピアノの鍵盤のような形をしていました。
その後、数年で世の中はカセットの時代になり、オープンデッキはついに手に入れることができませんでした。
今ではオープンデッキを民生用に市販しているメーカーはありません。中古市場にはごく少数が出回っていますが、すべて1980年以前のモデルです。
オープンデッキは、国内ではティアック、アカイ、ソニー、デンオン、テクニクス、オタリなどが有名です。ここでご紹介するのは、ちょうど30年前のアカイのオープンデッキです。
とにかく大きくて重くて、とても存在感があります。30年前のオープンテープは劣化することなくきちんと再生できました。その音色は、レコードとも異なって、迫力が桁違いです。
オープンテープの素晴らしさには本当に驚きました。憧れの時代から40年経ってようやくその音を知ることができたことは、感慨深いものがあります。
ミュージックテープの入手はとても難しく、当時の価格を上回ることもしばしばです。特に、ジャズはとても高価になります。
♪ヘッドクリーニングこそがすべての始まり
オープンデッキで初めて聴いたとき、ひどく音がこもっていてがっかりしたものです。どのテープを聴いても同じ。高域が全く出ていないのです。
テープの経年劣化か、ヘッドの摩耗か、アジマスの調整かと悩みましたが、ともかくヘッドを掃除してみようと、クリーニング液と綿棒のキットを買い、ヘッドをていねいに何度も掃除しました。
そして、あまり期待しないでテープをかけてみると、きらきらした高音が飛び出してきたのです。驚くとともに安堵しました。
テープの劣化はまず心配ありません。何を置いてもヘッドクリーニングから始めることをお薦めします。
ヘッドのギャップはテープの走行に対して垂直方向にありますから、綿棒で掃除するときもギャップに溜まった磁気粉を取り除くためには、テープの走行方向に対して垂直方向に綿棒を動かします。
GX-635Dは、3モーター6ヘッドです。6個のヘッドがならんでいる様は壮観です。
中央の大きな丸いものはシングルキャプスタンを支えるゴムローラーです。
ヘッドまわりはとてもきれいで30年前のものとは思えません。AKAIのGXヘッドは特に耐久性に定評があります。フェライトヘッドを特殊な方法でガラスコーティングしているのです。
向かって左側(次の画像)のヘッド群がフォワード用
向かって右側(次の画像)のヘッド群がリバース用
オープンテープでは、カセットデッキであったようなテープのズレや音の揺らぎ感は全くなく、非常に精密な走行系だと思います。モーターの回転音も全く聞こえません。
3モーター6ヘッドの完動品
♪手間のかかるオープンデッキ
図体が大きく、高価で手間のかかるオープンデッキは、カセットの普及とともに姿を消していきました。
4トラック2チャンネルのテープ幅は1/4インチ(約6.3mm)。カセットのテープ幅はわずか4mm。
テープ速度はオープンが19cm/sに対し、カセットは4.75cm/s。
メタルテープを持ってしても、オープンとカセットでは情報量が同じはずがありません。手軽で小さなものに何もかも変貌していく過程でオープンデッキは消えていったのでしょう。
テープの再生には、ミュージックテープを左側の送り出しシャフトに取り付けます。右側の巻き取りシャフトには空リールを取り付けます。
ミュージックテープからテープの端を引っ張り出してテンションアームに掛け、ピンチローラーとヘッドの間をとおして巻き取り側のテンションアームに掛けた後に巻き取りリールにテープを固定します。
テンションアームでテープの張り具合を調整して再生ボタンを押すと、ようやく聴くことができるのです。
GX-635Dは10号リールがかかります。10号リールがゆっくりと回転している様は感動さえ覚えます。
再生ボタンを押すと、プランジャーが作動する「ガチャン」という大きな音とともに、おもむろにリールが回り出します。
大きな機械にもかかわらず、ストップボタンを押せば小気味よくブレーキが効いて両方のリールが停止しますし、リバースボタンを押せば、一瞬の沈黙のあと正確に逆転を始めます。
メカニカル的にも非常におもしろいものです。水面下ではオープンデッキのブームが秘かに始まっているようです。
オープンデッキではノイズリダクションの必要性は全く感じません。
後期のオープンデッキには、クロームテープに対応した「EE」ポジションやダイナミックレンジを広げる「dbx」を内蔵したものもありましたが、後期以外のほとんどの機種には付いていません。
GX-635Dには「WIDE RANGE」と「LOW NOISE」の切替スイッチがついているだけです。
深いバイアスが必要なローノイズ・ハイアウトプットテープは「WIDE RANGE」、通常のローノイズテープは「LOW NOISE」にすると取扱説明書に書かれています。
♪メンテナンスがカギ
オープンデッキ後期は、デュアルキャプスタン方式が主流でしたが、GX-635Dのようなシングルキャプスタン方式はモーターのダイレクトドライブとなり、プーリーとゴムベルトの駆動ではないため、メンテナンスにおいて有利です。
また、内蔵のアンプ基盤なども相当年数を経過しているので、いつ故障してもおかしくありません。幸いにもよく使われている2SC945や2SC458などは今でも入手可能です。
メーカーが現存しているTEACやSONYでもオープンデッキの修理は行っていませんし、AKAIは会社自体がすでにありませんから、個人で修理してくれるところを日ごろから探しておくことが必要になります。
ネットオークションを丹念に探すとそのような個人を見つけることができます。
♪オープンテープの音
オープンテープの音は、アナログソースの中で最も優れていると言われます。民生用にはいわゆる2トラサンパチ(2トラック38cm/s)が最高で、それはそれはいい音だそうです。
レコードのマスター音源もテープですし、取り直しがきくという柔軟さも優れたところです。
オープンデッキは、市販のミュージックテープを標準ソースと考えると、その音は非常に素晴らしいものです。
レコードよりも格段によく、CDの力強さには相通じるものがありますが、滑らかさ、奥行き感、力強さなど、レコードとCDの良いところだけを備えたようで、私には一番好ましく思えます。
特に中低域に厚みがあり、チェロのピチカートなどは衝撃音が風圧のように感じられますし、コントラバスの低音は地の底に響き渡るような出かたをします。
とてもタンノイ チェビオットから出ている音と思えません。300Bパワーアンプはわずか8Wの出力ですが、余裕を持って鳴らしきっています。よいソースは、アンプやスピーカーの隠れていた実力を引き出してくれるようです。
2トラック38cmのテープは、リバースがなくフォワード(行き)だけですから、1/4インチのテープ幅を右chと左chの二つのチャネルだけに使い切ることができます。
スピードも毎秒38cmでテープを送るので、その音はまるで別物。近々2トラ38機を入手したいと考えています。
問題は、ミュージックテープや生テープが極めて入手しにくいことです。
ミュージックバード(衛星デジタルラジオ)やWOWOWなどのデジタルTV放送でのライブ番組や、昔ながらのNHK・FM放送が貴重なソース源になります。
昔とは違ってハードディスクに録音したデジタルソースからのダビングが主体になるでしょう。また、すでに死語となったNHK・FMのライブを「エアチェック」する日が復活するのも遠くないでしょう。
その証拠に、昔の’70年代のバリコン式チューナーがなかなかの人気なのです。
GX-635Dのスペック (使用説明書より)
トラック方式:4トラック 2チャンネル・ステレオ
最大使用リール:26型(10号)
テープ速度:19cm/秒、9.5cm/秒(±1.0%)
(ピッチコントロール可変±6%)
ワウ・フラッター:0.03%(19cm/秒)
周波数特性
30~25,000Hz(19cm/秒)ノーマルテープ
30~19,000Hz(9.5cm/秒) 〃
30~27,000Hz(19cm/秒)ハイアウトプットテープ
30~21,000Hz(9.5cm/秒) 〃
総合SN比:62dB
録音バイアス周波数:100kHz
寸法:440mm幅×483mm高さ×256mm奥行き
重量:21kg